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さくらのはなし -アトリエN- [アトリエN]

 古(いにしえ)、この国では山に棲む神を「サ」といい、「サ」は春になると里に降りてきて田の神となった。
 そこで、稲の苗は「サ」苗であり、田植えの月は「サ」月、田で働く若い娘は「サ」乙女で、その頃に降る雨のことを「サ」水垂(みだ)れと呼んだ。
 サの神が里に降りてきて腰かける木のことをサクラ「サの鞍・座」といい、昔は春に咲く花木全般のことをそう呼んだらしい。
 コブシやモクレンなどもサクラと呼んでいた時代があったそうなのである。
 世界中には百種ほどのサクラがあるが、日本にあるのは十種で、エドヒガン・オオシマザクラ・オオヤマザクラ・カンザクラ・カスミザクラ・タカネザクラ・チョウジザクラ・マメザクラ・ヤマザクラ・カンヒザクラである(何故カンヒザクラだけアイウエオ順を無視して最後に挙げたかというと、野性のカンヒザクラは石垣島にしか見られないからで、あるいはこれを除いて九種と考える方が正しいのかもしれない)。
 それぞれに変種もあり、交雑種もあるのですべての名を挙げるのは難しい。
 花弁が5枚というのが一般的な花の形だが、八重咲・百枚以上ものキク咲き、シダレ咲きもある。
 サクラといえばソメイヨシノのことと思われているムキもあるが、これは江戸の染井村(現代の豊島区駒込にあった)の植木職人がオオシマザクラとエドヒガンを掛け合わせてつくった栽培品種で、花びらの大きさと淡い色合いと、先に花だけが咲くその姿が人々に好まれて、あっという間に日本全国に広まっていった(残念ながら沖縄では育つことが出来ず、北海道では札幌が北限である)。
 ソメイヨシノとはいいながら、吉野桜とはなんの関係もない。この桜が作られた当時は、桜と言えば吉野桜という時代だったので、いわば箔付けのために、そのブランド名を借用したということであるらしい。
 すべてのソメイヨシノが接ぎ木で増殖されたクローンであるため、同じ地域では一斉に咲き、一斉に散る。ソメイヨシノは実をつけないといわれることもあるが、そんなことはない。ただし、すべてが同じ遺伝子を持つので、ソメイヨシノ同士で繁殖することはできない。近くに別種のサクラがあれば、その花粉を受けて実をつけるが、そうして出来たサクラは、もはや雑種である。
 なな山で当たり前に見られるヤマザクラが東京区部では絶滅に瀕しているということを、皆さんはご存じだろうか。
 ヤマザクラは光を好む『陽樹』で、人の手が入る里山は誠に好適な環境なのだが、薪炭の需要が減り、また開発が進んで里山そのものが減少し、あるいは管理放棄されたりして、その自生種としての存在が脅かされているというのだ。なな山のヤマザクラを守ることは我々が考えている以上に大切なことのようである。
  N田さん

ヤマザクラ.jpg
ヤマザクラ。提供:「写真素材足成」(http://www.ashinari.com)

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