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毒を持つ植物たち -アトリエN- [アトリエN]

 裸子植物たちが空へ伸びる。
 それを追いかけて、草食恐竜の首が長くなる。食われてなるものかと、裸子植物はさらに空へと伸びる。草食恐竜の首は、さらに長くなる。
 それを、皮肉な目で眺めている植物たちがいた。新参の被子植物たちである。
 「バッカじゃなかろか」
 と言ったかどうかは知らないが、被子植物たちは、そんな成長レースに加わる気はハナからなかった。そのかわりに、彼らは毒で武装することにした。
 恐竜は小惑星の衝突による環境激変で死滅したというのが定説とされてきたが、その前に、被子植物の毒に対応しきれずに衰退を始めていたと考えられている。末期の恐竜の化石には、卵殻が薄くなっていたり、臓器が肥大していたりと、植物アルカロイド中毒の痕跡が見られるそうだ。
 大きな動物たちは世代交代にも時間がかかり、速やかな進化が出来にくい。それに引き替え短命な昆虫たちは、あっという間に植物の毒に対する耐性を獲得してしまう。なかには植物の毒を体内に取り込んで、鳥による捕食を免れようとする輩まで現れる。ジャコウアゲハがその代表格である。幼虫も成虫も、黒と黄のダンダラ模様(警告色)をまとい、これみよがしに鳥に対してみせびらかす。
 「毒虫やぞ、喰うたら死ぬでえ、こらあ」というわけである(なぜか関西弁)。
 でも、それもかわいいほうだと言っていいかもしれない。
 毒植物たちの多くは、警告すらしない。
 葉はギョウジャニンニクに似て、球根の形はタマネギ、球根をむけばジャガイモにそっくりなイヌサフラン。若葉の姿がニリンソウと見分けがつかないトリカブト。根茎がしばしばワサビと見間違えられるドクゼリ。シキミの実は、香辛料のハッカクにそっくりで、しかも油で揚げれば香ばしいにおいがする。ドクウツギの実などは、口に含めば甘い(そのあとに七転八倒の苦しみが待っているが)。
 しかもこれらの毒植物たちは控えめで清楚で、自分を主張しない。
 また、困ったことにその毒成分の含有量は個体ごとに違っている。もし自殺目的でトリカブトの根茎を食べたとしても、必ず死ねるわけではなく、そのくせ例外なくのた打ち回らせてくれるのだ。
 どうしてそんなにイヤミな性格になってしまったのか、一度訊いてみたいものだが、多分教えてはくれないだろう。
 付記
 今年(2018年)4月と7月には、北海道で誤食事故により、70代男性と80代女性がそれぞれ死亡しました。
 どちらのケースも、イヌサフランを他の植物と間違えて食べてしまったものですが、怖いことに、どちらの場合も、そのイヌサフランは、自宅の庭先に生えていたものだそうです。
     「なな山だより」44号より、ブログ掲載にあたり一部改訂
  N田さん

ギョウジャニンニクとイヌサフラン.jpg
ギョウジャニンニク、イヌサフラン

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