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あたま山あたま池 -アトリエN- [アトリエN]

 ケチベエという男、道で拾ったサクランボを種ごと食べたところ、頭の上に桜の木が生えてきた。あまりにも見事な桜なので、見物人が押し掛けてきて、飲めや歌えの大騒ぎ。
 中にはケチベエの耳にはしごをかけて、桜の枝によじ登ろうとする男まで出てくる始末。
 あまりにもうるさいので、ケチベエはその桜の木を引っこ抜いてしまう。
 するとその穴に夕立が降って、大きな水たまりができた。さあそのあたま池には、ボウフラが湧くアメンボが湧く、フナやコイやメダカが湧いて、釣りをする者、舟遊びをする者が押し寄せてきた。
 ケチベエはすっかり世の中が嫌になって、自分のあたま池に身を投げて死んでしまった。
 ケチではあっても、客から金をとって、ひと稼ぎしようという商才はなかったものと見える。
 江戸の落語「あたま山」、なんともシュールな噺ではあるが、生きている人間の体に草や木が生えることは、実際にはないそうである。
 カビやキノコが生えることは無いではないが、人間の体温は植物にとっては高すぎて、万が一着床しても、成長することはできないそうだ。
 巨人の死体から万物が生まれたという神話は世界中にある。インドのプルシャ神話や中国の盤古伝説などである。我が邦の場合、伊弉諾尊が黄泉の国から帰還した後でミソギをすると、左の眼からは天照大御神が、右の眼からは月読命が、鼻からは須佐之男命が、それぞれ誕生したと伝えられているが、大陸の盤古伝説の影響を受けていると考えられる。
 ジブリ映画「もののけ姫」では、首を撃ち落されたシシガミが、ドロドロの体液を迸らせながら荒れ狂った末に、首を取り戻すと穏やかに死んでゆき、それと同時にこの世に新たな命が芽吹いてくるという象徴的なシーンが描かれている。生命の誕生には、その前提として、大いなる死が必要ということだろう。
 あらゆる生きもののDNAにはテロメアというものがあって、生物種ごとに細胞分裂の回数を決めている。人間ならば一個の細胞が分裂できる回数は約50回で、そのためヒトの寿命は最長でも120歳を超えることはないそうだ。なぜ細胞の分裂回数から最大寿命が計算できるのかは、非理系の私にはうまく説明できないが、近頃ではこのテロメアに細工をして、ヒトの寿命を伸ばそうという研究もおこなわれていると聞く。
 考えられることならなんでもやって見ずにはおかないのがホモ・サピエンスの特徴だから別に驚かないが、生き物の生と死は分かちがたく繋がっているのだから、あまりいじくらない方がいいのではあるまいか?ただでさえ史上最凶の環境破壊者となってしまった人類の数をこれ以上増やしてどうしようというのだろう?核廃棄物で地上を汚染し、マイクロプラスチックで海洋生物を痛めつけているヒト族。ホモ・サピエンスとは『知恵ある人』という意味なのだそうだが、この世界を汚しまくっている種族が知恵ある存在だとは、悪い冗談としか思えない。
 さらにその上、不老長寿などを目指そうという輩は、あたま池にでも飛び込んで死んでしまえ。というのが乱暴なら、せめて池の水で頭を冷やしたらどうなのだろうか?
  N田さん

あたま山.png
あたま山。イラスト提供:いらすとや https://www.irasutoya.com/

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