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ヒゲとパンツとヒンメリと [なな山だより]

 一年半ほど前に退職して年金生活者になった。何か新しいことを始めようと考えた。手軽なところからと、風貌を変えてみた。頭髪を伸ばし髭を生やし、日頃の着ているものを変えてみたりした。様々な色物を着るようになった。世の中の見え方が少し変わったようにも想えるが、大した変化にはならなかった。
 そうしているうちに少し太ってきたことから、窮屈になった胴回りを直そうとミシン掛けを始めた。ミシン掛けが好きな訳ではないが、時間はあるのでゆっくりだがパンツを作り始めた。一枚の平ったい布がミシン掛けをするたびに立体的な形になって行く。どうもこの形を変えていくプロセスを想像するのが好きだということに気付いた。世の中には文字を使って小説、詩、俳句というようなものを作る人が居るが、私は布地のパーツを縫い集めて形を作っていく、そんなことが好きなのだ。
 そんな時、なな山緑地でシノダケ・ヒンメリを始めた。シノダケ・ヒンメリ作りは、なな山緑地にあるシノダケを切り出し、洗い、一定の寸法に切り揃え、中空部分にワイヤーを通して編む、単純な作業ばかりだが最後に思いがけない形に出来上がる。完成の瞬間はいつもうれしくなる。そもそもはフィンランドの麦藁細工を模したものだが、面白い。今や、私の部屋には大小40個余りのシノダケ・ヒンメリがぶら下がっている。寝転んで見上げることが多いが見飽きない。
 時折は、写真のような光景に目を奪われたりもする。この頃は、眺めながら新たな形を考える楽しみさえ覚えた。作るのには根気が必要だがこつこつと自分のペースで進められるので自分に合っている。そうしているうちに最近は、少しずつ一緒に作る人も現れた。他の人の作品から新たな刺激を受ける、こんな楽しみも生まれた。
 退職後を第二の人生ともいうが、私の場合はヒゲとパンツとヒンメリとを通して、新たな試行と展開とを始めているようだ。どんな人生になるのか、たのしみになってきた。
『なな山だより』41号より
  N山さん

シノダケ・ヒンメリ.png
シノダケ・ヒンメリ

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