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ベロニカ -アトリエN- [アトリエN]

 十字架を背負って刑場へ曳かれてゆくキリストに駆け寄り、ハンカチで額の汗を拭いてあげた一人の女性がいた。そのハンカチには後日キリストの顔が浮かび上がったという。
 女性の名前はベロニカといい、小さな花びらにキリストらしい人の顔が見えることから、その名で呼ばれるようになった野の花がある。
 わが国では一般にオオイヌノフグリという名で知られているヨーロッパ原産の帰化植物である。日本にやってきたのは明治時代だが、昔からこの国にいた「イヌノフグリ」の生息域をいつの間にか奪ってしまった。もっとも、在来種の衰退を外来種のせいにするのは間違いで、多くの場合、人間の活動による生息環境の攪乱が根本原因であるらしい。
 フグリとは陰嚢の事で、実の形がうしろから見た犬のキ○○マに似ていることから、そう呼ばれている。
 花びらの模様は、蜜が花の中央にあるよ・と、ハチやアブに示すサインだというが、どんなにためつすがめつ見ても、キリストの顔どころか人の顔にすら見えないのは、私に信仰心がないからなのだろうか?
 オオイヌノフグリの花は揺れやすく、ハチやアブは振り落とされないように懸命にしがみつく。そのしがみつきやすい場所に雄しべと雌しべが配置されていて、夢中でもがくハチの体に花粉がくっつくというしかけになっている。
 早春に咲く青い小さな花は、よく見ると結構美しい。星の瞳とかキャッツアイとか呼ばれることもあり、フグリではあんまりだと、瑠璃唐草だとか天人唐草だとかの呼び名も考えられたが、定着はしていない。
 花言葉は「春の喜び」「信頼」「神聖」そして「清らか」。
 フグリなのに清らかとはこれいかに、と思ってしまうが、陰嚢だろうが、その前に配置されているスティックだろうが、神の創りたまいし生き物の器官はすべて神聖にして清浄なものということなのだろうか?
 ハチやアブによる受粉が成功しなくとも、オオイヌノフグリは困らない、最後には自家受粉という奥の手があるのだ。というよりは、主に自家受粉で結実する植物であるらしい。
 細く揺れやすい花茎でグリングリンと虫どもを振り回すオオイヌノフグリ。實は繁殖のためではなく、まだ寒い早春の一日を、そうやって虫と一緒に遊んでいるのかもしれない。
 賢い草花のこと、それも大いに有りかも知れないと、近頃は思っている私であります。
  N田さん

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ベロニカ(ペドゥンクラリス、這い性)。提供:「写真素材足成」(http://www.ashinari.com)

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フグリ

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