SSブログ

チューリップの嘆き -アトリエN- [アトリエN]

 1630年代のオランダでチューリップのバブルが起こった。裕福な商人たちの間に珍しいチューリップによる花壇作りが流行し、球根が高値で取引されることに目を付けた人々が市場に群がったのである。
 たった一個の球根に煉瓦職人の15年分の年収に匹敵する値がついたのは序の口として、最盛期には、たった一個で広大な屋敷やビール工場が買えるほどにも狂騰したという。
 当然のことながらバブルは弾け、金貸しから高利の金を借りてまで買いあさった球根の値は暴落した。
 夢の「球根」が一転して「困窮」のタネになったのである(ここ笑うとこ)。
 高値を呼んだ美しい模様を持つチューリップは、斑入りの花を咲かせる球根の一部を切り取って、別の球根に埋めこむという方法で作られたが、実はこの美しい模様は、モザイク病ウイルスという病原体に感染したものであったことが今日ではわかっている。
 春に花咲くチューリップのつぼみは前年の初夏にできる。春に咲くウメ・モモ・サクラなどの花木たちが地上で蕾を作りはじめる同じそのころに、土中で春咲きの球根類の蕾が生まれている。
 この球根は、冬の寒さを通過しなければ開花しないという特性を持っている(チューリップだけというわけではない)。
 可哀想だからと温室で冬を過ごさせては開花しないのだ。
 この性質を利用して、真冬にチューリップの花を咲かせようと考えた人々がいた。
 チューリップの球根を一定期間冷蔵庫に入れ、冬を体感させる。その後温室で育てることによって、真冬に花を咲かせることに成功したというわけだ。
 チューリップこそいい迷惑である。
 モザイク病に感染させられたり、冷蔵庫に入れられたり、ヒトという生き物は、他の生き物の都合などは一切考えない、強欲で厄介な存在であるようだ。
 チューリップは肉厚な緑の葉を空に向かって差し伸べているが、ひょっとしたらそれは光合成のためというよりも、『人間にはかなわないよ』という、お手上げポーズなのかもしれない。
  N田さん

チューリップ.jpg
チューリップ。提供:「写真素材足成」(http://www.ashinari.com)

コメント(0) 
共通テーマ:地域