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「都会に花が・・・」 -アトリエN- [アトリエN]

 ドローンというのはミツバチのオスの事で、また「怠け者」という意味もあるそうだ。
 別に仕事が嫌いなわけではない。オスのミツバチというのは云ってみれば空飛ぶ精子ボンベなのであって、ほかの仕事をするようにはプログラムされていない。女王蜂とはいいながら統治行為をするわけではなく、一生涯をかけて産卵に明け暮れるだけの存在であることと対を為している。ミツバチにとっての繁殖期がやってくると女王蜂は数匹のあらたな女王蜂候補と、数百匹のオス蜂を産み出し、オス蜂どもは空の一角にむけて一斉に飛び立つ。そこには周辺のあらゆる巣から放たれた数万匹のオスどもが群がっており、そのオスバチ溜まりに処女の女王蜂候補が飛んでくると、オスどもは黒い雲のようになって、その尻を追いかける。
交尾に成功したオスバチはその場で息絶える。挿入器が体から抜けて、体液を失うのだ。
 交尾できなかったオスども(こちらの方が圧倒的に多い)は巣に舞い戻るが、すぐに叩き出される。いずれにせよ、交尾期が過ぎれば、用無しの存在として死ぬ定めなのである。
 働き蜂というのはすべて不妊のメスで、彼女らの仕事は、巣の補修、女王蜂や幼虫の世話、外敵との戦い、巣内の保温(体を高速で震わせて発熱する)、花粉や蜜集めなど多岐にわたるが、面白いことにそのキャリアは内勤からはじまり、外回りの仕事はベテランになってから割り当てられる。ベテランといっても一部の例外を除いて数週間の命しかない働き蜂のことだから、我々人間の感覚とはずいぶんに違う。
 「長い間ご苦労さん、外で息抜きでもしておいで」というわけではないようだ。
 紫外線を『色』として識別できるミツバチにとって、世界の景色はヒトの見るものとはまるで違っているという。賢くて花への当たりがソフトなミツバチは、顕花植物の最も大切なパートナーだから、紫外色をも駆使した花の模様は、主としてミツバチに向けたものと言ってよいだろう。
 さて、閑話休題(それはさておき)。
 風が吹けば桶屋が儲かる・という諺がある。
 強風が吹けば、砂が巻き上がって人の眼に入り、盲人が増える。
 盲人の生計を支えるツールとして、三味線が必要になる。
 三味線には猫の皮を使うので、猫が殺される。
 猫がいなくなると、ネズミが増える。
 ネズミは桶をかじる。
 だから、桶屋が儲かるという論法だが、前記項目の確率をそれぞれ一割として計算すると、0.1×0.1×0.1×0.1×0.1で0.00001ということになり、ほとんどありえないという結論になるし、そもそも現代日本において、桶屋さんという職業はいまや希少種なので、ピンとこない人が多いのではないだろうか?
 そこで「都会に花が増えればクリーニング屋が儲かる」という新たな諺を考えてみた。
 花にはミツバチがやってきて花粉をやりとりする。
 すると花は受精し、実をつける。
 実を食べるために、鳥が集まってくる。
 消化管の短い鳥は、飛びながら糞をする。
 都会には高価なスーツやドレスを着た人たちが歩いていて、そこに鳥の糞が落ちてくる。
 そこでクリーニング屋が儲かる・というものだが、このコトワザ、街のあらゆる歩道・あらゆる庭・あらゆる公園・そしてあらゆるビルの屋上が花で満たされていなければ成り立たず、ダメでしょうかね、やっぱり・・・。
  N田さん

ミツバチ.jpg
ミツバチ。提供:「写真素材足成」(http://www.ashinari.com)

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