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妖しの彼岸花 -アトリエN- [アトリエN]

 彼岸花は、とにかく異称の多い花である。
 曼珠沙華は、「紅い花」という意味のサンスクリット語から。
 毒草であるから、毒花、痺れ花。土葬が一般的だった昔の日本では、野鼠等による害を防ぐためにこの毒草を墓地の周囲に植えたことから、死人花、幽霊花、地獄花。
 その花の形から、狐の松明、狐のかんざし、剃刀花。花の時季には葉がなく、葉が生えてくるころには花がないことから、「葉見ず花見ず」とも呼ばれる。
 秋雨の終わりかけた彼岸の頃に、地面から一本の茎をすっと伸ばし、地上50センチ位の茎頂に赤い花をつける(時には白い花も)。
 一週間ほどで茎も花も枯れてしまうと、今度は地下の鱗茎から緑の葉が伸びてきて、冬を越す。葉はアサツキに似ているから、誤食事故が起こることもあるという。
 毒のアルカロイドは水に晒すと消えてしまい、鱗茎にはでんぷんを多く含むため、昔は飢饉の際の救荒食になったというが、毒草であるため年貢の対象外とされており、お百姓たちはずいぶん助かったことだろう。
 花は咲くが、種子はできない。三倍体と言われる遺伝子構成のせいであって、増えるのは専ら地下の鱗茎によってのみ。だから、中国から渡ってきたと思われるこの花が全国に広まっていったのは、鳥や虫の力によるものではなく、人の手でひとつひとつ植えられてきたからなのだそうだ。しかも、全国に展開するこの植物は、たった一個の鱗茎のクローンであるといわれている。
 実に妖しい花である。秋に花を咲かせ 冬に葉を出し 夏には地上から姿を消すという、普通の植物とは真逆の成長プロセスといい、空に向かってまるでアンテナのように放射状に広がる花の姿といい、種子を作らない三倍体であることといい、自然が作り出したものとは思えない。
 そこで、若いころSFに熱中した私は、次のように妄想する。
 これは超古代のマッド・サイエンティストが作り上げた通信装置なのでは? 花が出す特殊なパワーにより、人の心を操って世界中に自らを広めさせ、今は異界に去ってしまった創造者に地球各地の情報をひそかに送信しているのではあるまいか……と。
 ところで、そんな重要な使命を負った花が、一年のうちに一週間ほどしか咲かないということの説明をどうコジツケよう?
 それを一生懸命考えているところなのだが、今のところ良い答えが思い浮かばない。
 「追記」 よくニラやノビルと間違えられて誤食事故の絶えないスイセンやタマスダレもヒガンバナ科の植物である。毒植物の多くは自己アピールをせず、ヒトの縄張りに重なり合う場所でひっそりと咲いていることが多い。ニンゲン界の近間に生きる彼らは、野性を失いつつある私たちに、さりげなく警告をする存在なのかもしれない。
  N田さん

彼岸花.jpg
彼岸花

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