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ゴボウ哀歌 -アトリエN- [アトリエN]

 ゴボウはキク科の植物で、アザミと近縁なので、種を播いて2~3年もするとアザミによく似た淡紫色の頭状花を咲かせる。
 世界中でもゴボウの根を野菜として食べる習慣を持つのは日本人だけで、「飛ぶものなら飛行機以外、四本足なら机以外はなんでも食べる」といわれる中国人も、ゴボウの根を食材にはしない。漢方薬として利用するくらいである。ヨーロッパでは主に花を愛でる。たまにはその若葉をサラダにすることもあるというが、ゴボウの根を食べることはない。
 戦時中に新潟県の直江津俘虜収容所でオーストラリア兵に対する虐待が行われたとして、終戦後 横浜軍事法廷で裁判が行われ、八人の日本人関係者が絞首刑になった。
 その虐待行為の一つの例として『捕虜に木の根を食べさせた』ことが挙げられたが、その木の根とはゴボウの事なのであった。日本人と欧米人の食習慣の違いが生んだ悲劇であったと云えないことも無いが、極東裁判自体、戦勝国が一方的に敗戦国を裁くという、国際リンチだったので、なんでもありの一つだったのであろう。
 敗戦目前の日本では食料が不足しており、日本人でさえ飢えていた。捕虜の栄養状態を心配した収容所が、むしろ好意で、その頃は高価だったゴボウを食事に出したのだったが、そのような事情は考慮されなかった。
 もっとも、日本人は挨拶代わりに人を殴った、という捕虜の証言にある通り、軍の中では暴力が常態化しており、それは同じ日本人同士でも、上官と部下との間で当たり前のように行われていたということもある。それが捕虜に向けられた時に、異国人をリスペクトしない日本人に対する恨みや反感が、捕虜たちの心の底にわだかまっていたことは間違いないだろう。戦争犯罪を裁くのなら、アメリカによる原爆投下こそ、第二次大戦における最大の戦争犯罪ではないかと思うが、それを語るのは、当時も今も半ばタブーとされている。
 さて、重い話はこのくらいにして。
 観光地などで「ヤマゴボウ」の名で売られている漬物の原材料はモリアザミ・フジアザミ・オヤマボクチなどで、本当のヤマゴボウやヨウシュヤマゴボウは有毒である。多量の硝酸カリを含んでおり、腹痛・下痢・嘔吐を惹き起こし、ひどいときには昏睡に至る。
 誤食事故には十分注意したい。
 中国から薬草として渡来したこのゴボウの種子は、「牛蒡子」「悪実」と呼ばれ、発汗利尿・消炎・排膿薬として用いられる。
 ゴボウの実を見る機会はあまりないが、オナモミと同じように、びっしり生えている刺の先端が、釣り針の先のように折れ曲がっている。スイス人のデ・マエストラルは野生ゴボウの実の形に注目して、マジックテープを発明したという。
 熊と相撲を取ったという伝説のある金太郎(坂田の金時)の息子・金平の名にちなむキンピラゴボウ。別に坂田金平がそれを作ったわけではなく、精力に溢れた人物と精の付く食べ物とを連想で結び付けただけではあるのだが、キンピラゴボウはゴボウとニンジンを使い、それにゴマを加える。豊富な食物繊維が腸内を掃除し、ゴマのセサミンが血液をサラサラにする。野菜食中心の伝統を持つ日本人の腸は長いので、ゴボウの根を消化するのに苦労はしないが、肉食である白人の腸は短い。
 直江津俘虜収容所のオーストラリア兵たちにとって、ゴボウの料理を消化することは、虐待といえるほどの苦行だったのだろうか?
  N田さん

きんぴらごぼう.jpg
きんぴらごぼう。提供:「写真素材足成」(http://www.ashinari.com)

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