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喰えないやつら [アトリエN]

とある菜園の中、ジャガイモ爺さんの自慢話が始まった。
「ウオホン、並み居る野菜の中で被告席についたのは、わしのご先祖様くらいのものじゃろう」
インゲンマメもゴーヤも、アスパラガスも、そしてキャベツにトマトも、またかという顔でそっぽを向いているのだが、ジャガイモ爺さんはお構いなしである。
「時は1748年、フランスはブザンソンの高等法院で有罪判決を受け、栽培禁止となったのじゃ、そもそも・・・・・」
爺さんの長広舌に耐えかねて、ゴーヤが茶々を入れる。
「爺さんよ、それは18世紀の話だろ?今じゃあ、飼いならされて、ずいぶん温和しくなったのじゃないのかい?」
「なにを言うとる」
と、ジャガイモ爺さんはムキになって
「どんなに時代が過ぎようと、野性の牙は抜かれておらぬわ。そもそもこの国で一番中毒率が高いのは、わしらジャガイモなんじゃ。一度あたれば腹痛・嘔吐・下痢・めまいでのたうちまわり・・・・・」
「下痢・嘔吐・腹痛なら、おいらも負けていないよ」と、インゲンマメが口をはさむ。
「しかも、わずか5粒もあれば十分。ひょっとしたらジャガイモさんより強烈かもね」
そこにゴーヤが割って入り
「さあてねえ、それなら俺たちのほうが、凄いかもよ」
すると、そこにアスパラガスの声がした。
「ちょっとあんた達、嘔吐・腹痛・下痢だなんてイケてないんじゃない?しかも汚いしさ。あたしたちみたいにクールにいきましょうよ」
「お前さんのどこがクールなんだよ」
ジャガイモ・インゲンマメ・ゴーヤが一斉に突っ込むと、アスパラガスはすまし顔で
「あたしはね、ヒトのお腹にはあたらないのさ、農家の人や、缶詰工場で働く人たちの眼や鼻や喉に、ちょいと悪さをしてやるんだよ」
「けっ、それのどこがクールなんだよ、陰険なだけじゃないか」
「ああら、インゲンさんに云われたくない言葉だわねえ」
キャベツとトマトがおずおずと割って入り
「まあまあ、皆さん、喧嘩はやめましょうよ」と、とりなしたが、みんな興奮しているので、おさまるものではない。ジャガイモ爺さんなどは
「なんだお前らは。毒にも薬にもならぬ腰抜け野菜のくせに」
きめつけられて、怒りと屈辱のためにキャベツは青ざめ、トマトは赤くなった。
「私たちだって、毒ぐらいは持ってますよ」
× × × × ×
キャベツとトマトの名誉のために言っておくが、アブラナ科のキャベツにはカラシ油配糖体があり、これがゴイトリンというものに変身すると、極めて厄介なことになる。もっとも、市場に出回っているものは品種改良済みで、ほとんど問題にはならないらしい。
トマトの毒性物質であるトマチンは、不快感や胃の不調をきたす物質だが、赤い実を食べて中毒するには相当な量を食べなければならない。しかし、茎や葉には実の2400倍ものトマチンが含まれている。アステカからヨーロッパに持ち込まれたこの野菜が、200年もの間、虫垂炎や胃がんを引き起こすと云われ続けていたのはこの為かもしれない。
ジャガイモは、あまりに小さいものや、長時間光に当たったものは避けた方がよさそうだ。
インゲンマメは調理前に良く水に浸し、柔らかくなるまで加熱すること。加熱が不十分な場合は、生のマメの50倍にも毒性がはねあがる。
店頭に並ぶゴーヤは未熟果で、まず中毒の危険はないが、収穫期を過ぎてオレンジ色に完熟した果実は怖い。この話には登場しなかったが、完熟果が怖いのはズッキーニも同様である。家庭菜園からのおすそわけには十分注意した方がよさそうだ。
      N田さん

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