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山動く - 広げよう会員の和 リレー随筆 [なな山だより]

昔の書き手が言っている。「行く川の流れは、絶えずして、しかも、元の水にあらず」と。雲も風も流れ動いている。空気も雨も留まることはない。だが、山については、「動かざること山の如し」と動かないものの代名詞となっている。本来動きそうもないことや、社会的情勢が根元から変動することなどが生じたとき、山が動くと言ったりする。「山が笑う」という言い方は、古くからある。早春から新緑の頃まで、樹木に覆われた山が、春を告げるコブシやキブシの花から、木々の芽吹き、ヤマザクラの花へとその色合いを変え、数々のみどりを色濃く染めていく、その移ろいをそうあらわしているのだ。

多摩の山といえば、それは雑木林を指している。多摩の雑木林に関わって、内から外から、汗まみれの労働と感性をフル回転させて感じるそれは、いろいろ多様な動き、変化に満ちている。
雑木林という自然界は、一年をひとつのサイクルとして、繰り返しの営みを続けている。それが四季という季節の変化の中で私たちに違った姿を見せてくれる。
ところが、こういう考え方は私たちの生活環境、社会環境から見れば当然のこととして捉えることができるが、山に入って体験を繰り返していくうちに、少し考えを変えなくてはならなくなった。山に人の手が加わると、山も変わるのだ。混み合った林を、間伐して少し日照を増すと、今まで眠っていた潜在的な植物が芽吹いてくるのだ。下草を刈ると、目立たなかった草本が勢いをつけてくる。つる草の絡みを根気よく取り払ってやると、より美しい花を咲かせてくれる。落ち葉を集積した場所には、数え切れないカブトムシの幼虫が見つかり、草を刈ったあとに出てきた虫に小鳥たちが群れた。散策の道をつけて、じっくり周辺を観察すると、コナラのドングリからかわいい双葉が出て少しずつ大きくなってきた。

新しい草花も見つかった。木々の目立たない花や実が、葉の蔭に、ひっそり着いているのを見つけることもできた。作業をしているすぐそばに来て私たちに語りかけるかのように姿を見せたのは、アオジかジョウビタキ、ウグイスか。山は私たちを自然の一部として、仲間として迎え入れてきていると感じる。
山は生きている。動いているといっても良いと思う。機会あるごとに山の動きを書き留めていきたい。

次の会報では、馬場さんにこの欄のバトンを渡したい。この雑木林では最も多量の汗を流しているよう
に思うからだ。
   相田幸一
   「なな山だより」創刊号(2005年9月)より

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