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大家と店子のはなし -アトリエN- [アトリエN]

 大工職人の与太郎が店賃(たなちん)を6ヶ月も溜めて、道具箱を大家に取り上げられてしまうことから巻き起こる騒動を描いた落語「大工裁き」。
 店子同士が(俺は何年入れてない・いや、うちは親の代から入れてない)と自慢?しあう「長屋の花見」「黄金の大黒」。
 江戸時代には店賃を払わない店子と、それを取り立てようとする大家との攻防がそれほど沢山あったのだろうか?おそらくそんなことはあるまいが、持たざる者の悲しさとたくましさをおかしくも明るく描き出す名作話芸だと思う。
 生物の世界にも大家と店子の関係はあって、その一つはマメ科植物に見られる。
 枝豆やカラスノエンドウなどのマメ科植物と根粒菌との関係である。
 マメ科植物は、根粒菌の空中窒素固定能力のおかげで養分の少ない荒れ地でも育つが、その菌のすみかである根粒はマメ科植物が自ら作り出して提供する。根粒菌がやってきて何らかの化学的信号を出すと、マメ科植物の根の先端が菌を包み込むように捲れかえって迎え入れ、細い通路を作って根粒まで誘導しさえする。それだけではなく、根粒菌の生活エネルギーとなる糖まで与えるのだそうだ。
 長屋を提供するどころか三度の飯まで面倒みるというのだから、並みの大家ではない。
 もともとは病原菌として侵入を試みた根粒菌とマメ科植物との厳しくも果てしない攻防の末に、お互いの利用価値に気付いた両者が共生を選択したということなのだろうが、しょせん持てるものと持たざるものとの駆け引きなのだから、そこには美談だけでは済まされないシビアな側面もあるという。
 大家さんの情けに感じ入った店子が、せっせと窒素固定作業に励んでいる間はいいが、なかには仕事を怠ける根粒菌もいないではない。店賃である窒素の生産を滞らせる根粒菌には、栄養分の供給をカットしたり、根粒への通路を閉ざしたりして、制裁を加えるという。マメ科植物の大家さんは、店子の働きぶりをマメにチェックしているのである。
 生物の世界に管理会社があるわけではないのだから、この大家稼業、結構大変なのだ。
 もっとも、人生ん十年、一度として「持てるもの」になったことのない私だから、マメ科植物の苦労も今一つピンとこないのではあるが・・・。
  N田さん

カラスノエンドウ.jpg
カラスノエンドウ。提供:「写真素材足成」(www.ashinari.com)

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