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ナス科の呪い -アトリエN- [アトリエN]

 一富士二鷹三なすび。初夢に見ると縁起がいいということだが、富士と鷹となすびとは妙な取り合わせだな、と思いながらも軽くスルーして来た。ところがこれは徳川家康が隠居所とした駿河の国で、高いものを順に並べたものなのだそうだ。
 富士は、当然日本一の霊峰・富士山。
 鷹は、空を飛ぶ鳥の鷹ではなく、愛鷹山のことで、この2者が標高の高さを意味するのに対し、三番目のなすびは値の高さである。
 温暖な気候に加え、馬糞や麻屑などの発酵熱で加温し、油紙障子で株を囲うなどの工夫で、駿河の国では夏野菜のなすびが、正月に初成りを収穫できるようになった。一個一両で取引されるほどの高級品で、大名の賄賂に使われたこともあったという。
 ナス科の植物には毒をもつものが多い。ジャガイモのソラニンは時として死亡事故を起こすこともあるし、タバコのニコチンも当然強毒である。トマトにもトマチンという毒性物質があり、熟した赤い実を食べるぶんには問題は起きないが、茎や葉には実の2400倍以上のトマチンが含まれていて、いまはやりの創作料理などにこれを使うのはやめたほうがよさそうだ。また、チョウセンアサガオには意識障害や幻覚作用を惹き起こすスコポラミンが含まれている。
 牧野富太郎博士が命名した「わるなすび」は全草有毒で、そのうえ茎にも葉にも鋭い棘を持つという根性悪である。欧米では「悪魔のトマト」と呼ばれてもいる(そういえばワルナスビは、ミニトマトにそっくりな実をつける)。
 『秋ナスは嫁に喰わすな』という諺は、嫁に贅沢をさせるなという意味ではなく、跡継ぎを宿しているかもしれない嫁の腹を壊すようなことは避けろ、という意味なのだと以前聴いたことがあるが、ナス・ジャガイモ・ピーマン・トマト・トウガラシなど、これらナス科の植物は、常食していると乾癬や関節炎の原因にもなるという。ナス科の野菜のほとんどが南米原産のもので、他の世界に広まってから、まだ500年ほどしか経っていない。きちんと消化できない人がいても不思議ではないのだろう。
 しかし、それよりも。
 白人の新大陸への到達によって旧大陸にもたらされたナス科の植物たちだが、その背後にはすさまじい悲劇が横たわっている。
 スペイン人をはじめとする白人たちが持ち込んだ天然痘や結核やインフルエンザに加えて、徹底的な略奪や大量虐殺によって、新大陸先住民たちの人口は、わずか半世紀の間に9割近くも減少したそうである。キリスト教徒でもなく白人でもない原住民(インディヘナ)は人間ではなく、家畜のようなものだという身勝手な解釈のもとに、その肉を売り買いする市場まで開かれていたというのだ。
 ナス科の植物たちの持つ毒性物質は、恨みを呑んで滅んで行った彼ら先住民たちの呪いの産物なのかもしれない。
 蛇足:南米のペルーには地上絵で有名なナスカ地方がありますが、この話にはなんの関係もありません。
  N田さん

ナス.jpg
ナス。提供:「写真素材足成」(http://www.ashinari.com)

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