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ヘチマの戦略 -アトリエN- [アトリエN]

 ヘチマは南インド辺りで生まれた栽培植物で、昔は糸瓜と書いて、そのままイトウリと呼んでいたのが、いつしか「イ」がとれて、トウリと呼ぶようになった。「ト」はイロハ文字ではヘとチの間にある。そこでヘチマと呼ぶようになったのは、日本人の大好きな言葉遊びなのだ。
 高温多雨の熱帯では木も草も鬱蒼と茂り、まごまごしていると太陽の光を浴びられなくなってしまう。そこでウリ科の植物たちは他の木や草に巻き付いて上に伸びる生き方を採用した。茎を強く太くして自ら立つには、それだけエネルギーを消耗する。立っているほかの植物に巻き付けば、持っているエネルギーを素早く上に伸びるために使うことが出来る。いわば「他人の褌」作戦である。
 さて、私がまだ紅顔(厚顔)の美少年?だったはるかな昔、ヘチマというのはタワシや風呂場でのアカスリぐらいにしか使い道がないと信じてきたが、実は東南アジアやアフリカでは実や種を食用にするために栽培を始めたのだし、ヘチマ水は美肌水にもなる。
 「十五夜の月の光の下でしぼったヘチマの汁は、女の肌を美しくする」と昔から言われてきた。最近では、地球温暖化につれてグリーンカーテンとしての評価も高い。
 雌雄異花である。雌花は雄花より上位にあり、同じ株の花粉を受けないようにしている。
 いろいろな虫がヘチマの花を訪れる。
 イチモンジセセリ・アリ・ヒラタアブ・虫を待ち伏せるアズチグモ・ミツバチ・花びらを食べるトホシテントウ。 
 ところが、ヘチマの花粉はつるつるしていて、昆虫の体にくっついて花粉を運ぶのには、あまり適していない。では、どうやって受粉するのか?どうやら彼らは、人間の手をあてにしているらしい。受粉だけではない。ツルが空へ延びるための支柱も、棚も、水も肥料も、種とりも、人間の世話に頼って彼らは生きている。いまや野生のヘチマは、自然界では繁殖できない存在になってしまったと言っていいだろう。
 でも、それがヘチマの戦略なのだ。
 野生で生きられなくとも、子孫を残せれば、それでオッケー。
 実を食べられようが、ヘチマ水を抜かれようが、人間に自らの有用性を印象付けて、世話をさせれば、植物種としてのヘチマが絶えることはない。
 仕事もしないでブラブラしている男のことを【へちま野郎】というそうだが、何と言われようがふてぶてしく生き抜く、そんな戦略をとって繁栄をしているのは、ひとりヘチマだけではないようである。
  N田さん

ヘチマ.jpg
ヘチマ。提供:「写真素材足成」(http://www.ashinari.com)

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