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ナラ枯れと里山保全 - なな山だより [なな山だより]

2020年8月森木会からの報告ではじめて聞いた「ナラ枯れ」。みなさんの反応が早く、西の山で次々と見つかる。松枯れとイメージが重なり、なな山から樹木が消える……と動揺。このときこそ「正しく知る」ことの大切さを実感した。

関東南部に限れば、ナラ枯れの被害はほぼコナラ。ナラ枯れはナラ菌が樹木の細胞を壊し、これに抗する樹木の防御反応で導管が詰まる病気。樹液が樹冠に届かず、葉が全枯れし枯死木になることも。このナラ菌を媒介するのがカシノナガキクイムシ(以下カシナガ)。カシナガはコナラに穿孔して内部で繁殖する。

9月西の山からスタートしたナラ枯れ調査は、ササが生い茂るなかヤブ漕ぎをしながら樹木1本1本を見て回るという悪戦苦闘の連続。すぐ側にいたはずの仲間がヤブに消え、大声で動静を確認することもしばしば。急斜面で滑り落ちても助けに行くのにひと苦労。7回に及んだ調査の結果、コナラ437本のうち、枯死木(全枯れ)6本、感染木32本。特に西の山の被害が激しかった。感染木とは被害を確認できるが全枯れしていないもの。感染しても耐えて生育する可能性が高い。

2月からナラ枯れ対策が始まった。方針は3つ。①枯死木は、伐採し域外搬出のうえ焼却。これは多摩市依頼の業者が行う。②感染木は、カシナガの新成虫が飛翔してナラ枯れを拡散するのを防止するためビニールシートで被覆する。タオルを巻いた二重防御も行う。③未感染の健全木は、カシナガの穿孔を予防するためトラップを取り付ける。いずれも対策初年であり効果は未知数だが、成果を期待したい。ビニールシート被覆は思いのほか難行だ。特に根の周りを掘り起こしシートの端を埋め込む作業には手間取ってしまう。新成虫が飛翔する5月下旬までに準備を整えたい。

ところで、このナラ枯れはカシナガが大量に発生することが原因。カシナガは繁殖に最適な大径木を好んで穿孔する。昔コナラは薪炭用に15年ほどで伐採し、萌芽更新を繰り返していたため大径木が少なかった。燃料革命で石油・ガスが普及し、薪炭の需要が減る。放置されたコナラが大径木になり、カシナガの繁殖拡大につながった。程度の差はあれコナラすべてがナラ枯れに感染すれば終息するが、立ち枯れした木を放置するのは危険だ。大径木を減らしながら、コナラとカシナガの共生を図り、ナラ枯れの被害を抑えることがポイント。皆伐で生態系を破壊するより、区画を絞って数年単位で伐採する「エリア伐採」は有効な手法のひとつだ。生態系を維持・更新し、生物多様性を活かすサステナブルな里山保全の試みがテーマとなる。これには長期的な保全活動が欠かせず、私たちの継続的な活動が求められている。
   S子
   「なな山だより」52号(2021年5月)より

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カシナガトラップ取り付け

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ナラ枯れビニール被覆作業

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