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たんぽぽ戦争 [アトリエN]

 T市郊外の、とある丘の斜面。春の風に綿毛を飛ばすニホンタンポポの一群があった。
 タンポポA「ふわふわ綿毛、タンタン飛ばせ」
 タンポポB「真っ白綿毛、ポポンと飛ばせ」
 タンポポC「僕らの春は短いぞ、もうすぐ夏だ。夏になったら」
 タンポポD「夏になったら花枯れ葉枯れ」
 タンポポE「夏になったら地下でオネンネ」
 すると、タンポポ少女の声がした。
 少女「あたし、もっと咲いていたいな」
 タンポポA「ダメだよ、それは。夏はカヤやススキやヒマワリの季節さ」
 タンポポB「そうさ、夏は大きな草が、僕らの上にはびこるんだ」
 タンポポC「だから夏には僕らオネンネ。冬になったら葉を出して、春になったらさっと花をつけるんだ」
 するとタンポポ少女は口を尖らして
 「だってあの空地のタンポポは夏も秋も咲いてるじゃないの」
 みんなが一斉に言った。
 「あれはセイヨウタンポポ、僕らの敵さ。この場所を乗っ取ろうと狙ってるんだ」
 タンポポA「悪くて、ずる賢いやつらさ。一年中花を咲かせて、そのくせ花粉要らずで殖えるんだ」
 タンポポB「そのくせ馬鹿なハナアブに花粉を運ばせるんだ」
 タンポポC「奴らの花粉を貰っちゃダメだよ、乗っ取られるぜ」
 全員「気をつけろ、気をつけろ。セイヨウタンポポには気をつけろ。乗っ取られないよう気をつけろ」
 もう、ニホンタンポポの短い春も終わる。
 最後の綿毛をタンタンポポンと飛ばすと、彼らは夏眠の準備に入った。
 夏がやってきた。
カヤやクズやヒマワリや、野菊のはびこる丘の斜面に、まだ咲き残っているタンポポが二株・三株。
 タンポポA「どうしたんだろう、眠れないや、僕」
 タンポポB・C「君もかい?僕らもさっぱりだよ」
 のしかかる大きな雑草の草いきれにあえぎながら、三株のタンポポは花を揺らす。
 よく見ると、その総苞外片はわずかながら反り返っている。
  N田さん

タンポポ_2017-05-11.jpg
タンポポ。提供:「写真素材足成」(www.ashinari.com)

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