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ポパイとホウレンソウ -アトリエN [アトリエN]

 ロケットのような形をしたカタバミの実の中には小さな種がぎっしりと埋め込まれており、その一つ一つが白い袋に包まれている。
 種の成長につれて袋の内側の細胞層はどんどん膨らんでくるが、外側の細胞層はそのままである。だから種が熟すころには、袋はぱんぱんに張りつめて、一触即発の状態となる。
 もしあなたがそんな時期に、犬を連れて叢に足を踏み入れると、その振動を感じただけでカタバミの実は『もう辛抱たまらん!』とばかりに一斉にはじけ、粘液とともに種を爆裂させる。その種の飛ぶ範囲は、半径1メートルを超えるという。粘液は瞬間接着剤の役目を果たし、あなたの靴やペットの体に張り付いた種は、新しい世界への旅を始めることになる。ホウセンカやカヤツリフネソウも同じ原理で種を飛ばすが、この仲間の属名である『インパチエンス』は【耐えられない】という意味であるそうだ。
 カタバミはどこの道端にも見られる小さな雑草だが、実はハイテクの塊である。
 花には光センサーが装備されていて、朝になると開き、午後には閉じる。朝だけ集中的に活動するハチのリズムに合わせており、ハチがお休みする雨の日には、一日中花を開かない。また、カタバミの葉は夜には閉じる。
 蒸散や放射冷却による葉温の低下を防ぐためのシステムである。
三つのハートの形をした葉の中央部分に開閉する組織があり、光の量に応じて自動開閉システムが働いている。
 強光を浴びても花は閉じる。あまりにも強い光は、むしろ光合成に害を及ぼすからだという。
 ところでカタバミは、葉や茎を噛むと酸っぱい味がするが、それは蓚酸という物質を含んでいるからで、葉や茎で古くなった十円銅貨を磨くと、ピカピカになることで知られている。野菜ではホウレンソウが多量の蓚酸を含んでいる。この物質が動物の体内に入るとカルシウムイオンと結合して結石を引き起こすというが、無暗には食べられたくない植物の自己防御反応の一つなのだ。
 人間も動物だから蓚酸の採りすぎはよろしくないが、ゆで汁を捨てれば問題はないという。
 生ホウレンソウのサラダが大好きという人がいるかどうかは知らないが、あまり頻繁に食べるのはやめておいたほうがよさそうだ。
 シュウサン(週3)でも多すぎるかもしれない。
 ところでポパイ・ザ・セーラーマンは、ホウレンソウの缶詰をパワーの源泉にしていたが、あんなにも沢山のホウレンソウばかり食べていて、結石に悩むことはなかったのだろうか?彼の末路を知る人は、誰もいない。

 追記:ポパイのキャラクタースポンサーは全米ベジタリアン協会で、漫画版ではキャベツを丸ごと一個食べることで爆発的なエネルギーを得るという設定だったが、キャベツでは持ち歩くのに大きすぎるというので、ホウレンソウの缶詰ということになったらしい。
 ポパイの大ヒットに便乗してホウレンソウの缶詰が売り出されたが、売れ行きのほうは、それほどでもなかったそうである。
   N田さん

カタバミ.jpg
カタバミ。写真提供:写真素材 足成 http://www.ashinari.com/

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